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座談会・レポート

omoto展「あなたへ」レポート
2016.12.16

omoto展「あなたへ」レポート

島田 絢子(表参道店スタッフ)

島田 絢子(表参道店スタッフ)

愛媛県出身。大学では芸術学を専攻。
2015年よりかぐれ勤務。かぐれに出会い、手仕事と言葉を通じて日本の美しさを感じる毎日です。

今年も表参道店に欠かせない時間がやってきました。
毎年11月、秋の柔らかな日差しと冬の冷たい風吹くはざまで開催される、鈴木康人さんと智子さんご夫婦のomoto展。
かぐれでは2010年に初めての個展を開催して以来、今年で7回目の開催となりました。

展示前にomotoから届いた荷物。開封すると波のように押し寄せるたくさんの藍色の布、布、布。一口に「藍」といっても様々な色があることに改めて驚かされます。その間から時折覗くのは、蛍の光のように小さいながら確かな存在感を放つomotoの赤。そして、太陽の光をいっぱい浴びた、温かく力強い柿渋の色が現れました。
そんなomotoの色をまとったアイテム達。衣類や小物は合わせて90点以上、刃物や釘は50点近くが店頭に並びました。

  • 刃物や釘
  • 刃物や釘

今回は月曜日スタートだったにもかかわらず、オープン前に列ができ、初日からたくさんの方にお越しいただきました。展示前にも多数のお問い合わせをいただいており、こんなにもomoto展を待ち望んでいる方がいらっしゃったことに、例年に増して圧倒される思いでした。

展示スペース

展示スペースが1階だったので、ウインドウを覗いて入店される方も。窓際で太陽の光を受けて反射する刃先や、光の加減で表情を変える藍染めや柿渋染めの色は、omotoのために作られた白井明大さんの詩の世界を思い起こさせてくれました。
入口のすぐ横に、康人さんの出張研ぎ屋も設置され、日本の方だけでなく、海外のお客様からも注目を浴びる毎日となりました。

そんな展示の1週間。康人さんと智子さんは開店から閉店まで毎日在廊してくださいました。そしてomotoの作品を手にされるお客様一人ひとりと向き合ってお話しされました。手渡す直前に指先で刃を点検し、「何かあったらいつでも連絡ください」と名刺を渡す康人さん。服についてはもちろんのこと、包丁についてもどんな質問にも丁寧に答える智子さん。どんなにファンが増えても、どんなに名前が広まっても、ものを手渡す姿勢は、まっすぐで誠実なお二人。手渡すものへの自信と責任が感じられ、背筋が伸びる思いがしました。

康人さん

昨年、かぐれで購入した包丁を研ぎに持ってこられた男性は「手入れができてなくて恥ずかしいけれど」とおっしゃいました。それに対して「僕らがいる限り、いつでも一番良い状態にしますから」とゆったり受け取る康人さん。既にあった前掛けに、胸当てを組み合わせるアイディアを智子さんに提案したという女性も来店されました。「この人がいなければこれは生まれなかったの」とうれしそうに話す智子さん。
お二人にとって、たくさんの「あなた」がいる。目の前の、そしてこれから出会う「あなた」に渡したいものがある。決して派手ではないけれど、お二人の思いがものに乗って確実に広がっていました。

鍋つかみ

「あなた」に手渡すまでに、繰り返されるたくさんの工程があります。
たとえば、今回あっという間に完売してしまった鍋つかみ。服作りに使った端切れを捨てずにとっておいて、布が均等な厚みになるように針を入れます。内側にはロックミシンが掛けられ、丈夫な作りに。もし破れたとしても解いたときに直しやすくなるひと手間がかけられています。

もちろん服にも。omotoの布は何度も洗われ、縮みがないよう整えられています。
そして裏返しに着たとしてもおかしくないほど丁寧に縫われています。折り伏せの袋縫いで、丈夫でかつ、きれいな仕上がり。道具としてのomotoの服は丈夫で無駄がなく機能的で、その結果、見た目も美しく、身に付ける人を守ってくれるのです。

omotoの布

康人さんの出張研ぎ屋の砥石を載せる木の板に、切れ込みがあるのを見つけました。
「水がね、自然に下に落ちるように入れてあるんだよ。切れ込みがないと手前に流れて、作業が煩わしくなる。前はドリルで穴を開けていたんだけど、出張研ぎ屋だと特にね、その場で、じゃあこの板を使おうってなったときにドリルなんて用意できないから」。
目の前の包丁に集中するための工夫。康人さんにとっては「工夫」ともいえない、当たり前の支度なのかもしれません。どんな環境であろうと、自分の力を最大限に発揮するための思いの姿が少し見えた気がしました。

お二人の思い

お二人にとっては当たり前かもしれないことが、私にはとても大きなことに感じられ、感服するばかりの1週間でした。
目に見えてわかるものから、決して目には見えないものまで。手に取り、使い続けるなかで、お二人の思いがきっと感じられるはずです。

それでも、思いを乗せすぎないようにしている、とお二人は話します。
「作る人の思いより、使う人の思いを乗せていけるように。ものとの時間は使う人の方が長い方がいいはずだからね」と智子さん。
「使っていくと、必ず景色は変わってしまう。景色が変わってもいいような土台を作っている」と康人さん。手入れして、直して、また使う。使う人のことを本当に考えたもの作り。道具と人の本来の関係がここにはあります。
最終日に行われた座談会では、omotoと白井さん、そしてキュレーターの石田紀佳さんによって、暮らしと仕事についてじっくりと語られました。
どんなに便利になって、どんなに手頃なものが次々に現れても、最後まで本当に手元に残しておきたいもの、また残ってくれるものは思いの重さが違うことを教えてくれます。お二人の思いに負けないように、お客様に届けると同時に、使い手としても、まっすぐ誠実にものと向き合って、共に時間を過ごしていきたいと思う展示となりました。

今回、omotoの側で展示を見守ってくれた白井さんの詩をもう一度ご紹介したいと思います。 康人さん、智子さん、白井さん、そしてご来場いただきました皆様、今年もありがとうございました。

白井さんの詩

詩:白井明大


かぐれ