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座談会・レポート

omotoの日々と。 3月 福島・いわきにて
2017.11.27

omotoの日々と。 3月 福島・いわきにて

東京から高速バスに乗って約3時間。曇り空から時おり陽の光が射す、福島県いわき市に降り立ちました。
目的地は、かぐれスタッフも何人もお邪魔しているomotoのご自宅兼アトリエ、私たちスタッフはomoto邸と呼びます。このomoto邸で康人さんと智子さんは日々製作を行うとともに、ワークショップや月の周期に合わせたイベント「満月講」も開いています。
私はこの日、柿渋染めワークショップに参加してきました。

omoto邸は意外にもいわき駅から徒歩15分ほどの市内にあります。
常時車が行き交う幹線道路にはテレビCMなどでもよく見るチェーン店が並んでいて、いったいどこにあの森の中の一軒家のようなomoto邸があるんだろうと不思議に思いながら歩いていると、案の定、見過ごして通り過ぎてしまいました。

屋根の上では気持ちよさそうに柿渋染めの服が風になびいて

あまりにもイメージと違う立地に面食らいながらも、屋根の上では気持ちよさそうに柿渋染めの服が風になびいており、手招きされるような気持ちで呼び鈴に手を伸ばしました。

「どうぞー」と中から声が聞こえ、ガラガラと引き戸を引くと、玄関先から奥の和室まで道具がたくさん並んでいました。

玄関先から奥の和室まで道具がたくさん並んでいました

目に入るもの全てが新鮮で興味深く、民芸店にでも来たかな、と最初から圧倒されるばかり。
大小さまざまなカゴや、古い棚、その中の何に使うのか見当もつかない見慣れない道具たち。所狭しと、しかしあるべき場所にきちんと収められ、出番を待っているかのよう。
宝探しがしたくなるようなワクワクした気持ちと、古いものが発する独特な雰囲気に少し怖気づく思いが一度に湧き上がります。緊張を感じると同時に、どこか懐かしい気持ちでいっぱいになりました。

居間の先に見える庭では、参加者の皆さんが既に作業に取りかかっていました。

柿渋の液はピンク

柿渋と聞いてどんな色を思い浮かべるでしょうか。濃い茶色?柿の実のような鮮やかなオレンジ?この日の柿渋の液はピンクに近い白濁の薄い茶色でした。
生地の繊維の中に柿渋を染み込ませるイメージでギュッギュッともみ込みます。ついついたくさん染み込ませたい気持ちになりますが、生地に入る染め液の量はある程度決まっているそう。液が生地全体に行き渡ったらしっかり絞って次は干す作業へ。

「全体に日が当たるように、時々ハンガーのかけ方も変えましょう。シワも伸ばしてくださいね。柿渋は紫外線によって染まるので、光が当たらない脇の下やクリップで挟んでる部分はうまく染まらないんです。」

  • 干す作業
  • 干す作業

智子さんの言葉にみんなで感心しつつ手を動かします。風が吹くと少し肌寒いけれど、気持ちの良い日差しの中、自分の服が生まれ変わる姿に皆さんもうれしそうでした。
「製品にするには、この干す作業を半年近く毎日続けます。どんどん色が変わっていきますから、皆さんもご自宅でしばらく干しておいてくださいね。」

長い時間とたくさんの手間に驚きつつ、まだ見ぬ色へ期待が膨らみます。

午後は親子のぞうきん縫いワークショップが開催されました。去年も参加されたという親子もいらっしゃり、お子さんの成長ぶりに智子さんもなんだかうれしそう。

親子のぞうきん縫いワークショップ

最初は恥ずかしそうにお母さんにくっついていた女の子も次第に慣れて智子さんの声に耳を傾けます。好きな糸を選んで小さな手で一針一針刺していきます。

お母さんの手

小さな手に裁ちばさみは重く、慣れない針仕事はおぼつかないけれど、一針ずつ確実に進めていきます。そこに時々添えられるお母さんの手。
親子の手の表情の似ていることに気づいたり、みんなが黙々と作業するなかカチカチと古い時計の音だけが聞こえたり、なんとも優しい時間が流れていきました。

自分の手で自分の使うものを作る。ぞうきん1枚だって売っている時代だけれど、自分の手で一針一針縫い合わせていったものならば、何度でも大事に洗って使い続けたくなります。手入れをしたり丁寧に使ったり、暮らしと向き合うことは自分自身とも向き合うことですね。
消費しきれないほど物があふれる生活のなかでは忘れてしまいそうな大切なことがomotoの日々には当たり前にあります。

いつの間にか、鍛冶場の方から軽快な音が聞こえてきました。初めて目にする鍛冶場。外につながる二方の扉は開け放たれ、冷えた空気が流れていました。見慣れない道具や大きな機械が置かれ、壁面にはさまざまな形の火鋏が掛けられています。

鍛冶場

中心では康人さんが炉と向き合っていました。火で熱せられ真っ赤になった鉄と金槌の、硬いもの同士がぶつかるリズミカルな音。四角い板が叩かれ、伸ばされ、みるみるうちに形が整えられていきます。真っ赤な鉄が水に浸され、シュワっという音とともに一瞬で上がる白い水蒸気。炉の中の砂利をならす、ざあざあという音。全ての音が康人さんを囲んでまるで会話しているかのように途切れることなく続いていきます。大きさや形の違ういくつかの金槌や、先端の形が違う金属の棒、煤を払う小さなほうき。康人さんが手を伸ばせば届く範囲に、それぞれの役割を担う道具が待っていました。
火を見つめる康人さんの後ろには、春の訪れを予感させる膨らみがありました。
背が低いのはミツマタでしょうか、その後ろのは桜でしょうか、まだ見ぬ花びらの色を想像していると、その横に小さな丘があるのを見つけました。私は会うことが叶わなかった愛犬マルのお墓です。火と向き合う康人さんの背中を見守っているように思えました。

今回のomoto邸訪問で、忘れられないものの1つが智子さんのおいなりさんです。
ずっしりとお米が詰まった大きなおいなりさん。お米を丁寧に洗う後ろ姿も、この日一緒に泊まった大学生の女の子にお揚げへのお米の詰め方を並んで教えていた姿も忘れられません。ここではだれもが家族のようにいられるのです。

智子さんのおいなりさん

梅酢で味付けされたお米と甘くない出汁で炊かれたお揚げの、それはそれはおいしいこと。お米本来のおいしさがスッとからだに染み込んでいくようでした。
1個でもなかなかのボリュームですが、気づくとぺろりと2個食べてしまいました。翌朝、かぐれ勤務のために早朝にomoto邸を後にするときも、智子さんがタッパーに詰めて持たせてくれました。

誰がいつ来ても家族のように迎えてくれるomoto邸。そこでお二人の暮らしのなかで生み出される道具たちが今年もかぐれにやってきます。

omoto邸

島田 絢子(表参道店スタッフ)

島田 絢子(表参道店スタッフ)

愛媛県出身。大学では芸術学を専攻。
2015年よりかぐれ勤務。かぐれに出会い、手仕事と言葉を通じて日本の美しさを感じる毎日です。


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