読みもの

表紙に戻る

座談会・レポート

かぐれ10周年記念、石原稔久展「轍」を終えて
2018.12.07

かぐれ10周年記念、石原稔久展「轍」を終えて

かぐれ表参道店は、今年2018年の冬で10周年を迎えます。
オープン以来、様々な形で支えてくださったみなさまに心より感謝申し上げます。

「かぐれ(香具礼)」とは万葉集に登場する古い言葉で、「寄り集まる」という意味があります。
ライフスタイルを提案するお店として、いのちと暮らしの尊さに共鳴する場所でありたい。
自然と調和した心地よい暮らしを求めて、たくさんの人が、思いが、知恵が、ものが、集まってほしい。
そんな願いがブランド名に込められています。
そしてその名の通り、本当にたくさんの人・モノ・コトとの出会いに恵まれ、その美しさ、尊さに共鳴しながら10年という月日を歩んでくることができました。

かぐれ

「寄り集まる」をお店で体現するイベントの一つに、作家の企画展があります。
陶芸、テキスタイル、写真、盆栽、木版画、鍛造……etc. 
この10年、様々なジャンルで活躍している作家を企画展を通してご紹介してきましたが、はじめての開催は、陶芸家・石原稔久さんの個展でした。
「めざめのとき」と題したその個展以来、2014年、2015年と回数を重ね、初めての開催から10年を経た今年の10月。かぐれ表参道店にて3年振りに石原さんの個展を開催しました。
タイトルは「轍(わだち)」です。

石原 稔久「轍」

今回の展示へ石原さんが寄せてくださった言葉です。

表参道にオープンしたばかりのかぐれで個展をさせてもらったのは10年前。
「めざめのとき」と題したその展覧会は、その後の自分に大きな影響を与えた。
この10年の間に作った幾つもの作品は、たくさんの人たちの暮らしの中へと運ばれていった。
手から手へ。
それは濁流のようなこの世界では些細なことに違いない。
それでも、世界を立ち止まって眺めるにつけ確信のような思いが湧き上がってくる。
物作りが何百年もの歳月、作っては運び踏み固められたこの道こそが闇から光へと導く道標なのだと。

今日も届けにいく。
手から手へ。
まっすぐ伸びる轍を頼りに。

石原稔久

石原稔久さん

「自身の内面に『潜る』」 昔、石原さんとメールをしていた時に、創作の過程についてこう表現されていたことがあり、その言葉がずっと心に残っています。
潜る深度が深くなるほど、伴うものは楽しさよりも苦しみのほうが多いかもしれません。ただ、その行き着いた先、自身の奥深くにある静かな深淵に佇んだ時、心に見える景色には、私たちが見たこともないような美しい光が差し込んでいるのかもしれない。私は、石原さんの作品を手にとる度、自分自身ととことん向き合いモノを生み出す人たちの想像を絶する孤独と、彼らしか見ることのできない光を思います。そして今回寄せていただいた文章を読んで、石原さんが信じている道とその時間軸のスケールに圧倒され、この視点に立って創作している人だからこそ、彼の作品を手にする私たちにも、惜しみなくその光を分け与えてくれるのかと思わずにはいられませんでした。

今回の個展では、石原さんの作品と一緒に、「きのみの」さんのお菓子も販売しました。「きのみの」酒井里美さんは、茨城県笠間市で無添加のお菓子を作られています。ご友人でもある石原さんとは、笠間の窯業指導所で一緒に陶芸を勉強していた同志でもあります。

今回は、「きのみの」定番人気のお菓子の他に、この展示に合わせた新作のお菓子も店頭に並びました。初日には酒井さん自らがカウンターに立って、試食用のお菓子をお客様に出していただきました。お菓子用の器はもちろん石原さんの作品です。酒井さんのお菓子は、噛むごとにしみじみ味わいが深くなる、しなやかで優しいお菓子ばかり。食べると心にぽっと明かりが灯るような、生きる喜びが体にみなぎるお菓子たちは、酒井さんご自身の心の在り方そのものが投影されているように感じました。

個展初日の夜は、かぐれ10周年の記念も兼ねたオープニングパーティを開催しました。ケータリングは料理ユニット「つむぎや」のマツーラユタカさんと金子健一さんのお二人に、会場のスタイリングはディスプレイデザイナーのミスミノリコさんにお願いしました。お三方とも、石原さんとは長いお付き合いで、石原さんの海外での個展でも料理とディスプレイを何度も担当されています。かぐれでも様々なイベントでお料理とディスプレイをお願いしていて本当にお世話になっているのですが、実は、私たちかぐれとお三方との最初のお仕事は、10年前の石原さんの個展だったのでした。
それぞれが10年という月日に思いを馳せながら迎えたオープニングパーティ。テーブルには、石原さんが轍をモチーフにして作ったという長皿が並べられ、その上に美しいお料理たちがどんどん並べられていきます。轍皿の横には石原さんの人形たちが。種を蒔き、芽吹いて若葉になり、土に根を張っていく情景をイメージして並べられたお料理と、そこに佇む石原さんの人形たちは、私たちが共有した10年という月日を一本の「道」として表現してくれました。「みなさんが食べていただいた後のお皿には、きれいな轍ができあがっていると思います」と乾杯の前にマツーラさんが説明してくださった通り、パーティの終わりには、それは見事な美しい轍が、轍皿の上に生まれていたのでした。

それぞれの轍が重なって一つになり、またそこからそれぞれの道を歩み始める。
いつかまた、同じ轍で出会うときまで。
歩んで来た道とこれから歩む道。その両方を光溢れる空間で祝福し合えた、忘れることのできない夜となりました。

10年後、私たちはどんな景色を見ているでしょうか。
今歩んでいるこの道を確かに信じて進んでいけば、その向こうに見える景色にはきっと美しい光が差し込んでいるはず。石原さんの個展を終えた今、そう確信しています。
10年後、振り返った時に見える轍の姿を楽しみに、かぐれのこれからの10年、どうぞお付き合いください。

矢田 香菜子

矢田 香菜子

かぐれ 表参道店 店長。
青森は八戸に生まれ、青春時代は秋田で過ごした生粋の北東北人。


かぐれ