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インタビュー

「共に」スペシャルインタビュー(前編)
2013.07.20


「植物」を仕事にするまで
後編を読む

「植物研究所」という看板を出していても、植物についての生物学的研究をしているのではありません。
具体的には何をしているかというと、一番の中心は植物のお医者さん。日本には2万軒を超える花屋さんがあって手軽に植物が買えるのに、弱ったときに診てくれる人がいない、そこに疑問を感じて始めた「植物のお医者さん」は、どんなに小さなベランダの植木であっても、様子を聞き、検診に向かいます。さらには、都会でも人と植物とがずっと共に暮らしていく方法を考えて、植物の育て方を根本から学ぶ教室をしたり、東京近郊の山を、植物の解説をしながら歩いたりします。
植物に関わることならなんでも彼の仕事の範疇であり、全ての活動の目的は、植物の命を大切にする気持ちを育てること、そして人と植物がもっと仲良くなり、理想の共存関係を築くこと、なんです。
「植物のことなら任せてください!」と、満面の笑みで断言する塩津さんに、今の活動に至るまでの歴史を聞いてみました。

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「植物」を仕事にする、と決める

「母方の祖父は農家で、父方の祖父は林業を営んでたから、幼い時から植物には触れていたんだ。それが自然な環境だったんだよね。とにかく小さい頃から自分を表現したい欲求があったから、美術の大学に進んだのは自然だったと思う。最初はビジュアルデザインで入ったんだけど、思い起こせば植物の絵を描くとか、自然をテーマに作品にしていることが多かったんだ。
直接木に触ったのは大学の必修科目がきっかけなんだけど、すごく自分にフィットする感覚があったからそのままスペースデザイン科にコースを決めて、それからはずっと木工に夢中だった。
その後、卒業制作のときに大きな材が必要になって材木店へ行ったときに、7mのケヤキの一枚板に目がとまったんだ。とても素晴らしい材なんだけど、それを使いたいというよりも『それが生きていたときは、さぞかし立派な木だったんだろうな』と思ってしまった。それが素直な感情だったんだよね。その時に、あぁ、自分は生きてる木が好きなんだなって、気づいたんです」

命があるということ

――ひとつの転換点を迎えた塩津さん。その後の行動は?

「生きている植物を扱う仕事をしようって決めて、在学中から、生け花の先生についたり、観葉植物のディスプレイの手伝いをしたり、いろいろぶつかってみた。そして『この人だ!』と思った盆栽職人のところへ学びに通い始めた。彼は植物を本当に愛している人で、植物との関わり方が素晴らしかったんだよね。盆栽は平安時代から続いている文化で、最初に器に植えるときからその先何百年も生きていくという考え方でつくるところがすごいと思った。植物も人も同じ日本で生まれて、植物と家族のように一緒に生きていくことを楽しむ方法が盆栽で、自分はそれを求めていたっていうことが、働きながら分かっていったんだ」

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主役は植物

――直感を信じて在学中から盆栽職人のもとに通い始め、卒業と同時に弟子入り。3年の修業の後、独立し現在に至るのですね。その間、何か変化などはありましたか?

「もともと芸大を卒業して、何か表現したいという気持ちは常にあったから、修業を始めたときは盆栽の知識や技術を身につけて、作家として作品をつくっていくつもりだったんだけど、植物に触れていくうちにその気持ちがなくなっていったんだよね。それは、植物はそのままでもう十分に完成していて美しいって、気づいちゃったから。逆に何も触らない方がいいって思ったりもするくらい。
植物の生きている姿の美しさを引き立てるのが自分の役割だと思っているから、今回の展示も『塩津丈洋の作品展』だったらすごく違和感があってできない。あくまでも、主役は植物なんだ」

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――植物に触れれば触れる程、植物は盆栽の素材ではなくなって、植物の生命の美しさを伝えるという、塩津さんの表現活動の指針そのものになっていったんですね。植物に向き合い、植物に導かれるようにして今に至った塩津さんに、次は今回の展示会の作品と表現について聞いてみたいと思います。

(つづきます)

インタビュー&文:渡辺 敦子
本文写真:濱津 和貴(wakihamatsu.com


展示会情報
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関連イベント
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2013年7月27日(土)・30日(火)
かぐれ表参道
お好きな写真をもとに、器に植物を生け込みます。

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2013年7月26日(金)
かぐれ表参道
二人の描く理想の森の姿、自然と人の関係とは……。


塩津

【プロフィール】
塩津 丈洋(植物研究家)
緑豊かな和歌山県に生まれ、農業を営む祖父のそばで幼い頃から植物が身近な環境で育つ。盆栽職人の下で修業後、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然破壊・環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。ベランダの小さな花から庭の大きな樹木まで、植物の検診に駆け回る毎日を送る。
・塩津丈洋植物研究所 代表
・IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授
・名古屋芸術大学OHOC講師

塩津丈洋植物研究所
http://syokubutsukenkyujo.com/

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