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CULTURE TRIP SEP 09,2019

【いつかの暮らし彼方の暮らし 奄美大島】奄美移住1 スーツケースひとつで名瀬へ / TLWorks

島に到着した時は“初期装備のみ”。そこから知り合いや友達を増やし、仕事を手に入れ、そして島に根付く。まるでロールプレイングの勇者のように一歩一歩移住生活を叶えていった夫婦に会いに行った。


「奄美大島に移住」
そう聞くとどうしたってワクワクするような夢のような生活を想像してしまう。けれど本当に移住するとなると不安や知りたいこともたくさんあるし、果たしてどんな暮らしが待っているのか。

今回は3組の「移住者」に会いに行きました。
それぞれにいろんなタイミングで移住したのだけれど、最初は奄美市の「フリーランス移住」を上手に活用した夫婦をご紹介します。

「スーツケースひとつで来たんです」

向かったのは名瀬市街。
高層マンションやビルこそないものの、スーパーやバー、カフェなど様々なお店もあって街自体が賑やかなエリア。

今日お話を伺ったのは、カップルで奄美大島に移住後、こちらで入籍したという大阪出身のご夫婦です。

お二人が運営しているウェブサイト『TLWorks』で、夫はHP制作などWEB関係、妻はフリーのライターとして活動中。

富永寛之さんは大阪出身で高校卒業後にNYに留学、その後東京のゲーム会社や大阪のIT企業などに勤めた。間瀬るみえさんは「出身も就職も大阪。旅行以外で大阪から出たことのない」生活をしていたという。つまりは二人ともずっと“都会暮らし”。

大都市である大阪はとても魅力的な街。なんでもそろうし、なんでもある。便利だし楽しい街。それがなぜ奄美大島に移住することになったのだろう。

「ちょうど30歳になって、友人たちも結婚や出産をし始めた頃。大阪で遊びつくしたし(笑)、そろそろゆっくりしたいなというのがありました。最初は沖縄がいいかなあと思っていたんですが、私の祖母が奄美大島群の徳之島出身ということもあって、奄美もいいなあと」(るみえさん)

移住するまでに奄美大島に来たのは小学生時代の1度きりだったそう。
「祖母の姉を訪ねて徳之島に行ったのですが、すごくカルチャーショックでした。家の中にイモリがいるし(笑)。でも星がすごくてプラネタリウムみたいで、印象には残っていました。
当時は船で行くにも飛行機で行くにも交通費が高かったので、奄美に行くなら韓国いけるやん!って感じでしたが、(移住を考えた頃)ちょうどバニラエアが運航を始めたんです」

寛之さんは少々都会疲れもあったそうだ。
「集中しちゃうタイプなので、ずっと仕事人間だったんです。ストレスがすごくて給料をもらっても遊びに使っちゃうし、バランスが悪い生活をしていることに気がついて。そういうのを変えなきゃなと思って独立を考えました。WEBスキルが身についた頃にクラウドソーシングが普及し始めたのをみて、これならいけるなと」

最初に奄美大島に足を踏み入れたのは寛之さん。

「何とかなるだろうと、スーツケースひとつで来ました。その時点ではほぼノープランです(笑)。奄美に来てから市役所や不動産屋さんに行ってまずは家探しからスタートしたくらい。最初はやっぱり島に保証人がいないというので断られました。
だけどラッキーなことにその後良い不動産屋さんに巡り会えて、良い物件にすぐ出会えました」

それでも1週間くらいはGOLDEN MILE HOSTELというゲストハウスに泊まって物件が出るのを待っていたそうだ。(後で聞くとこの短期間で家が見つかったのは本当に幸運だったとか。人によっては1年近く家探しをする人も)

ここからの動きはまるでロールプレイングのようだったという。

「奄美のみなさんはとてもウェルカムな雰囲気でした。自分が持っているスキルや、やりたいことを伝えると、初日に市役所の方がICTをやってる人やしーまブログの編集長を紹介してくれたり。市がやっているフリーランス支援の寺子屋の無料講座にも参加させてもらいました」

“文章といえばSNSに書き込むくらい”だったというるみえさんもこの寺子屋で勉強し、ライターという仕事に就く。

「寺子屋に入って、勉強しながら記事を書く仕事を始めました。
最初は1記事書くのにも時間がかかって…。ようやく1ヶ月に10本近くかけるようになってから“あまみっけ。”というWEBマガジンで観光の記事などを書くようになりました」

事前に奄美大島について色々と調べていると、るみえさんの書いた記事に出会うことも多い。中でも地元のお店でお酒やお料理を食べて飲んで書いている記事はリアルで生き生きとしていて、まさかまだほやほやのライターさんだとは思わなかった!

とはいえ最初の方は仕事の受注もそうそう多くはないだろうし、ある程度蓄えはあったのですか? と聞くと…。

「はい、50万円ほど!」(寛之さん)

50万。失礼ながら例えば東京なら最初の初期費用であっという間に飛んで行ってしまう金額だ。寛之さんはWEBスキルがあったとはいえ不安はなかったのだろうか。

「もちろん今までの会社での業績は資料として出すことができません。だからとにかく実例を作ろうと思って。でもこちらに来たばかりの頃はネットもまだ繋げられなくて、近くのカレー屋さんのWi-Fiを借りてノートパソコンで仕事するという形でした(笑)。そのお礼にお店のHPを作成し、それを実績として次の営業に繋げた感じです。最初は無料で、そこから安い金額で仕事をこなして、だんだん(理想の)金額に上げていって…というこれまたロールプレイグングのような感じですよね」

ダンスレッスン風景(TLWorks撮影)

るみえさんも負けていない。ライター業の傍ら、ダンスの講師をしたり、週5で島の居酒屋で働きながら地元の人たちと交流を深める。

「島の居酒屋はもうパンチが強くて(笑)。でもそこでいろいろ島の情報をゲットしたり、フルーツをいただいたり」

「妻の方が顔が広いんですよ(笑)」

こちらでの友人もあっという間に増えたそうだ。
「奄美大島は僕たちと同世代の30代が多いんです。20代くらいまでは島外に進学や就職をして、30代ごろに戻ってくる人が多くて。だからスポーツバーで知り合った人たちとバスケをやったりして友達の輪が広がりました」(寛之さん)

知り合いが増えたことで仕事の幅も広がる。
「最近は奄美大島のアーティストたちのMVを撮らしてもらったりもしています。動画は完全に独学なのですが、この奄美大島の風景に助けられていますね(笑)」(寛之さん)

大阪時代の友人が恋しくなりませんか?と聞くと
「会いたかったら奄美に来て!って言ってます(笑)。こちらは11月くらいまでは外遊びも楽しめるし」(るみえさん)

のんびり名瀬暮らしの時間割

まだ若い夫婦。奄美大島での暮らしが知りたくて、お二人の「名瀬暮らしの時間割」を聞いてみた。

10:00~13:00 仕事or遊び
13:00~14:00 昼食(家or外食)
14:00~17:00 仕事or遊び
17:00~ 遊び、夕食(家or外食)
2:00 就寝
(事前アンケートより)

「だいたい10時ごろ…うーん起きる時間は適当です!目覚ましかけたくないんです(笑)。もちろん抱えている案件次第なので忙しい時は夜中までやっているけれど、ない時はネットゲームしたりお酒を飲んだり…あ、結構インドアなんです(笑)」(寛之さん)

アクティブ担当はるみえさん。
仕事でも島の中を飛び回っているということもあるけれど、ウェイクボードなど外遊びも好きだそうだ。

「もちろん遊びに行く時は二人で行きますけどね。外遊びや飲みに行くのも好きだけど、家でご飯を作る時間も好きです。こちらに来て油ソーメンやゴーヤ料理を作れるようになったり、こちらにしかない野菜を天ぷらにしたり。奄美大島は旬と密接なものが多いから、食べたいな、食べてみたいなと思うものがたくさん!」

二人での仕事風景(TLWorks撮影)

会社員のようにきっちり出社時間が決まっているわけではないので、休日や働く時間なども調整しながらやっているそうだ。
取材も二人で行うことも多く、調整をすればいろんなことを楽しむ時間も多く取れる。これはまさにフリーランスならではのライフスタイル。

「仕事で加計呂麻島を一周したり、奄美大島でも取材で民泊に泊まったり。住用の「ルパン爺とすずめの宿」という体験宿泊ができるところは本当にオススメです。ご飯も美味しいし宿の人もとってもいい人なんです。あとはキャンプ場のコテージに泊まってBBQしたり」(るみえさん)

こうやって生活を楽しみながら、お金を稼ぎ、奄美大島に馴染んでいく。
まさに市役所の方が提案する「フリーランスが最も働きやすい島」のモデルケースそのもの。

今ではすっかり“昔からの地元の人”と間違えられることも多いという二人。それほど地元の人たちにもあっという間に溶け込んだということだろう。
二人が感じた「奄美大島の人の特徴」を聞いてみた。

“酒飲み!時間ゆるゆる。なんかあったらすぐ踊る。老若男女音楽好き、祭り好き” と二人がすかさず交互に教えてくれた。

「お祭りはすごいです。特に8月は3日間連続の“八月踊り”があったり、花火大会や舟漕ぎ大会とたくさんのお祭りがあります。それとこちらは行事は全て旧暦で行うのも面白い」(るみえさん)

「奄美大島にこんなにも人がいたんやーってくらい集まるよね(笑)。あとスポーツも盛んです。僕がやっているバスケもそうだし、野球やマラソン、サッカー…。奄美群島全域でのスポーツ交流が盛んなんです」(寛之さん)

それと“人のよさ”も教えてくれた。

「車は必要な時は友達が貸してくれるんですよ。それも何人もいるんです」
「カーシェアリングみたいだよね(笑)」
「車に鍵をかけっぱなしの人も多いんですが(車を盗るような)悪い人はいない、という考え方なんです。実際そうですし」

もちろんそんな風にこの素敵な風景や、素敵な人たちに溶け込むことができたのは二人がちゃんとコミュニケーションを取ることができる人たちだったのも大きい。ただ、より親密な交流が必要となる集落に比べ、名瀬は移住のハードルは少し優しめと教えてくれた。

「名瀬は島の中で都会なので“集落ルール”みたいなのもないし、移住するのにもおすすめ。バランスはめちゃめちゃいいんです。スーパーあるしインフラ整ってる交通の便もいいし海も山も飲み屋もあって。足らないものはアマゾンで買えるし」(寛之さん)

お二人の住まいの近く。大きな建物と言ってもこのくらいなのでどこからでも空が見える。(編集部撮影) 
海の近くの街らしく、猫さんもたくさんいました(編集部撮影)
一見古い市場ですが、中には飲み屋さんなどのお店が数件並んでいました。時間があれば寄りたかった(編集部撮影)

大阪とは違う暑さにもすぐに慣れたそうだ。

「先日沖縄に行ったけど、奄美大島の暑さの質が違うんです。風が吹くせいかこっちはサラサラしている暑さ。なんでも奄美は31度以上ならないそうです。ある一定以上の暑さを海や森が吸ってくれるから日陰も涼しいんですよ」(るみえさん)

便利さも楽しみつつ、やはりこののんびりとした生活が気に入っている二人。
今後やりたいことはあるか聞いてみたところ

「その時その時やりたいことができればいいなあ
ストレスがないようにしたい。ストレスがたまるとダメになっちゃうし。こちらへ来たらゆるゆるになりました(笑)」(寛之さん)

「私も今はないなー。もう少しゆっくりしたいです。ゆくゆくは子供ができてとかあるかもしれないけど急いでもいないし。
2年ほど夜(居酒屋)に働いているので、もう少し昼にシフトしながら週1、2まで減らしてゆっくりしたいです」(るみえさん)

すっかり島の時間の二人。とはいえそれは“仕事がめんどくさい”とか“ただ楽したい”とかではないというのが話していて伝わる。

二人で取材に行き、妻が文章を書き、夫がWEBにあげる。島々をめぐる二人の冒険や体験がそのまま良い記事になる。だからこそ島時間や島に溶け込んだ生活もまた二人の“島暮らし”に欠かせない。奄美大島にすっかり根付き始めた二人だからこその“のんびりしたい”なのだろう。

最後に寛之さんがこう言っていた。
「島に貢献していきたい。今もその気持ちですが、これからも”自分ができること”をやっていくことで貢献していきたいんです」

大好きな風景

今回はせっかくなので、お二人に奄美大島で好きな風景やスポットを聞いてみた。

るみえさんが言うには、奄美大島の良いところは街と山と海が近いこと!
「あ、海行こうか。みたいな感じで海に行くことが多いです」

なんと羨ましい。海はわかるけど山も?と思ったら近くの「おがみ山公園」へ誘ってくれた。

二人の住むマンションから10分ほどあるけば…本当だ!小高い山がある。
普段運動不足のスタッフをよそ目に、結構な坂道(舗装されています)をスイスイと行く二人。

おがみ山公園の入り口は歩きやすく舗装されています。が、ここから坂道!(編集部撮影)
都内では見かけないような種類の木々がたくさん。しかも大きい!(編集部撮影)
暑い日でしたが森の木陰は涼しくて気持ちの良い散歩でした(編集部撮影)

道は舗装されているけれど、両脇に生えている木は南国特有のもので、まるで自然植物園の中を歩いているようだった。

もうすぐですよ、の声に期待して見上げると…うわー!すごい階段!

でもここが最後の難所。心の中でもうダメ・・・と思いつつも頑張って登りきり、ようやく頂上に着いた(下からのんびり歩いて頂上まで体感2、30分ほど)。

思わずさっきまでの疲れを忘れるほどに素晴らしい、名瀬市街と港が一望できる眺めがそこにあった。

ここには時々来るんだそうだ。
「街と海と山が近い」。まさにその言葉通りの風景。

昔カナダのバンクーバーに取材に行った時に、現地の女の子が「ここでは朝泳いで、会社に行って、そのままカヌー乗ったりトレッキングに行くのよ」と教えられ、山と川と街の近いそのライフスタイルが羨ましいと思ったものだが、なんだ日本にもそんな素敵な場所があるじゃないか!

「奄美大島は絶景だらけなんです。どこに行っても絶景」(るみえさん)

お二人が歩いた奄美の絶景写真もいただきました。加計呂麻アマーズロック(TLWorks撮影)
とてもよく晴れた日のおがみ山頂上(TLWorks撮影)
海遊びも海水浴やサーフィンだけでなくいろんな楽しみ方があるそうです。(TLWorks撮影)

他にも感動した素敵な場所があると聞き、奄美大島滞在中に時間を作って見に行くことにした。

「海まで降りていく坂道がすごくいいんですよ」と寛之さんが教えてくれたのは、名瀬から車で15〜20分ほどにある大浜海浜公園。ここは夕焼けの時間がすごく良いそうだ。ただ、取材時間の関係上着いたのはまだ日が高い時間。

強い日差しに照らされた水際は、波が砂浜に打ちつけられて泡が立たなければわからないほどに透明。沖縄ほど観光地化されていない奄美大島は、ごちゃごちゃした看板や海の色を邪魔するような観光地っぽいお店もまだ少なく、素直に海と、砂浜と、そして空を楽しめた。

この近くには「立神」と呼ばれる岩があるそうだ。

「海に立ってるでっかい岩なのですが、奄美大島の周りにたくさんあるんです。地図には載っていないものもあるけれど、その岩があったから奄美大島という島が残っている、と言われていていわゆるパワーのある場所」(るみえさん)

そのうちの一つ、安木場(アンキャバ)立神にも行ってみた。

のちに調べたところ、この立神は“神様がやってくるときに最初に立ち止まる場所”と言われているそうだ。奄美大島の周りにあるこの立神は、奄美大島がこの場所にとどまるための杭のようになっているという伝説もあるのだとか。

ここも夕日が綺麗と教えてもらったが18時ごろに行ってみてもまだまだ日が高い。けれどあと1時間後の夕焼けに備えて、海の色はさっきよりは少しづつ夕焼けの赤を含んで濃い青へと変化し始めている。

「立神は地元の人にとっては祈りの場所というより、子供の頃からそこにある“あるがまま”の場所なんですよ」(るみえさん)

その言葉通り気がつけば立神がよく見えるところには、近くに住む集落の人たちが椅子を出して座っている。そして涼しくなる時間を待ちわびるかのようにおしゃべりに興じていた。

TLWorks

〒894-0027 鹿児島県奄美市名瀬末広町6-12 平田ビル 302

URL:https://www.tlworks-japan.com/

PROFILE

大辻 隆広Photographer

福井県出身。
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石黒幸誠氏を師事後、2007年独立。
現在は、雑誌や広告だけでなく、写真展やプロダクトの製作など、ブランドや企業とのコラボレーションも度々発信している。

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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